『くらしのいずみ』谷川史子

 谷川史子が青年誌に移って初めての単行本。夫婦(「早春のシグナル」だけは結婚直前)を描いた短編連作なのだが、登場する「妻」たちは皆、立派な「少女」だ。そしてそれと同じくらい「夫」たちは見事に「少年」。おそらく谷川史子のエッセンスは登場人物の年齢や舞台をどれほど変えても不動のものなのだろう。そう言って良いほどに良質の「少女漫画」に仕上がっている(と、同時にそういう「少女漫画」観が捨て去られつつあるのが近年の潮流でもあるのだろうが)。
 個人的には、「6軒目・冬木家」が気に入っている。突然妻が実家に帰ってしまったことに七転八倒する夫・麦生の様子がコミカルに描かれている。そして、妻・すみれの行動もかわいらしい(特に最後の電車内のやりとり)。また、「早春のシグナル」では、新婦の大親友の女性が実は新婦に恋心を抱いていて、それに気づいてしまった新郎が逆に大親友を応援してしまう、という軽い「百合」話が展開されている。
 穏やかなタッチで描かれ、最後はハッピーエンドになる。だから、谷川史子の作品は読者をほっとさせてくれる。その一方で、夫婦が夫婦でいる為にはわかりあう努力をし続けなくてはいけない、というメッセージが刻み込まれている。好きになって、つきあって、結婚してそこがゴールだと思ったら大間違いなのだ。むしろ、その先から「夫婦の恋愛」が始まる。相手の持つ謎を読み解こうとする夫は困惑と好奇心に満ちた冒険好きの「少年」であるし、相手の持つ謎が解けなくて苛立ち、怒ったり泣いたりする妻は自分の殻から出て未知の世界に触れる「少女」そのものだ。こういう初々しさを正面切って描ける作家は貴重だと思う。

くらしのいずみ (ヤングキングコミックス)

くらしのいずみ (ヤングキングコミックス)